30代男性のゆるみきった日々の記録

私が読んだ本の感想、大好きなヤクルトスワローズ、食べたもの、日々起こったことについて、つらつら書いていきたいと思います。

名刺代わりの小説10選【後半】

だいぶ遅くなってしまいましたが、前半に引き続き、今回は名刺代わりの小説10選【後半】を書いていきます!
後半5選は以下のとおりです!

6.梶井基次郎 檸檬

檸檬 (新潮文庫)

檸檬 (新潮文庫)

まずは教科書に載っててこいつやべえとしか思われないで有名な、梶井基次郎檸檬です。
ただこの作品を含めて、とにかく文章表現が素晴らしいです!
僕が初めて日本語の美しさ、妖艶さみたいなものを教えてもらった作品です。
言葉が美しく、みずみずしく、生き生きとしていて、大好きな作家さんです。
残念ながら若くして亡くなったので、この作品集1冊でほぼ全作品楽しめることになります。

7.村田沙耶香 コンビニ人間

コンビニ人間 (文春文庫)

コンビニ人間 (文春文庫)

次は村田沙耶香さんの「コンビニ人間」です。
この作品は、こんなに狂った主人公もいないというくらいのやばさがあります。
けんかを始めた小学生男子たちに、同級生女子がだれか止めて!と叫ぶのを聞き、仲裁するためにけんか中の男子同級生をスコップで殴る。
公園にいた死んだ小鳥を、焼いてお父さんに食べさせようと母親に提案して怒られ、その小鳥を埋めて、摘んだお花で周りを飾ろうとする母親に対して、お母さんもお花をたくさん殺してるのに、なんで死んだ小鳥を見て泣いてるんだと思う。
など、やばい行動連発の主人公ですが、生き方が自由になってしまった現代において、コンビニバイトをマニュアルに従って整然と的確に処理していく行為に、落ち着きとこの上ない喜びを感じるというのは、ある種分かるなというか、自由になりすぎて、何をしたらいいかわからなくて、暇と退屈を持て余して苦しんでいる我々が共感してしまうような、いびつで面白い作品だと思います。

8.谷川流 涼宮ハルヒの憂鬱

私自身、大衆小説の面白さは、まず大前提として話の筋、そして語られる文体にあると思うのですが、僕はこの2つを100%満たしている作品が、谷川流さんの涼宮ハルヒシリーズだと思います!
とにかく主人公であるキョンの語り口のユーモア性がたまらないのです!
1作目の「涼宮ハルヒの憂鬱」の書き出しは
「サンタクロースをいつまで信じていたかなんてことはたわいもない世間話にもならないくらいのどうでもいい話だが、それでも俺がいつまでサンタなどという想像上の赤服じーさんを信じていたかと言うとこれは確信をもって言えるが最初から信じてなどいなかった。」
となっており、流れるようなリズム感とユーモア性が感じられます。
4作目の「涼宮ハルヒの消失」の冒頭、冬の寒さを例えるモノローグで、
「地球をアイスピックでつついたとしたら、ちょうどいい感じにカチ割れるんじゃないかと言うくらいに冷え切った朝だった。いっそのこと、むしろ率先してカチ割りたいほどだ。」
とするなど、表現が非常に面白く、内容もSF的設定を使った学園物としてよくできていますし、大変おすすめです。
一時期ライトノベルも読もうとした時期はあったのですが、どれも文体が合わず、結局ハルヒシリーズが一番面白かったです!

9.綿矢りさ 蹴りたい背中

蹴りたい背中 (河出文庫)

蹴りたい背中 (河出文庫)

  • 作者:綿矢 りさ
  • 発売日: 2007/04/05
  • メディア: ペーパーバック

お次は綿矢りささんの、「蹴りたい背中」です。
綿矢りささんは、芥川賞を当時19歳という若さで受賞した作家さんで、未だにその最年少記録は破られていません。
当時デビュー作の「インストール」とこの作品は売れに売れ、100万部を超えるベストセラーとなり、父親か母親かだれが買ってきたのか分からないけれど、うちにも置いてありました。
中学生くらいのときに、それに気付いた私は、そんな流行りものなんかに手を出すか!へっ!みたいな感じで、よくある中二病的価値観によって、それを遠ざけていたのですが、高校に入ったくらいのとき、それを読むと、まさに衝撃を受けました。
高校生のちょっと浮いてる痛い女の子を、こんなにも的確に描写できる人がいるのかと。
そして何だこの流れるようなリズム感と面白い表現の数々は!と思い、完全に魅了されてしまいました。
綿矢さんの作品は、文章の共感度が高いところがとても好きで、文章中に出てくる心情描写も、例えも、なんかそれわかるなぁと思ったり、少し笑えたり、この表現にはこれしかないとぴったりはまっていく言葉を、紡いでいくところがとても好きです。
思わずはっとさせられる警句も、登場人物の会話中にたくさん出てくるので、面白いです。
とにかく痛い系の女性を書かせたら右に出る者はいないという感じがします。
「インストール」「私をくいとめて」もおすすめです!

10.星新一 ボッコちゃん

ボッコちゃん(新潮文庫)

ボッコちゃん(新潮文庫)

最後は星新一さんの「ボッコちゃん」です。
この作品は、言わずと知れたというか有名すぎるくらい有名な作品ですが、とても面白い作品です。
星新一さんはショート・ショートの神様と言われた方で、短編よりも短い分量で、必ずあっと驚くオチがあるお話を、1001篇創り上げたという凄まじい作家さんです。
SF作品なのですが、とても読みやすいというのが特徴です。
SF御三家というので名前を挙げられるのが、前回の筒井康隆さん、そして星新一さん、もう一人は日本における本格SFのパイオニアにして完成者として名高い、小松左京さんが挙げられるのですが、そのお三方を石川喬司さんというSF評論家で作家の方が、評している文章が面白いので引用します。
この文章は日本における初期のSF界を、一つの星に見立てて、その惑星がどのように開拓されたかということを例えた文章なのですが、3人が登場する部分だけ抜粋すると、
星新一がこの惑星へのルートを開拓し、小松左京が万能ブルドーザーで地ならしし、筒井康隆が口笛を吹きながらスポーツカーで乗りこんだ。」
となり、3人の作家さんの特徴をよく捉えています。
まず星新一さんは、ショート・ショートという誰にでもわかりやすく、かつ面白く読める作品で、日本にSFというジャンルの輸入に成功した凄い方なのです!
その後自身の博学かつ深い洞察とユーモアセンスを兼ね備えた、「日本沈没」や「復活の日」「果しなき流れの果に」などで有名な小松左京さんが本格SF小説のジャンルを作り上げ、その世界を確固の物とし、最後に筒井さんが独自のスラップスティックコメディの発想やSF的設定、
そして純文学の知見を応用した自由で面白くて毒のあるSF作品を発表し始めたために、「スポーツカーで乗りこんだ」と書かれているわけですね…笑
さて、そんな星新一さんの作品は、まず文章が特徴的で、文体は乾きに乾き、人物描写もできるだけ簡素に、人物の名前はアルファベットすら削ぎ落した文章になっており、それ故に古びることのないものになっているんだと思います。
1001篇を完成させたあとは、ひたすら過去の作品に出てくる最近は使われなくなった単語を、現在の言葉に手直しする作業をされていたそうです。
必ずあっと驚くオチがついており、敷居が低く、だれが読んでも面白い作家さんは、唯一無二だと思います。
創作するときは何枚も書き溜めた設定メモを広げ、それを混ぜ合わせたあと3枚引き、その組み合わせで話を考えるというような、落語の三題噺的発想で作られることもあったそうです。
星さん自身も落語好きで、そして喋ると爆弾発言連発で爆笑に次ぐ爆笑を呼ぶと、SF作家の皆さんから評判だったらしく、筒井さんもよくそのことに触れ、星語録を作りたいと話していましたが、未だ実現に至っていないそうです。
筒井さんとは、昔は本当に仲が良かったのにも関わらず、筒井さんは文学賞を次々と受賞していき、一方の星さんは子ども向け作家として扱われ、直木賞も受賞できず、それに嫉妬し、晩年は、文学賞のパーティーで、普段温厚な星さんが、筒井さんに、「俺の話をパクりやがって」っと凄み、周りが凍り付く、ということもあったそうです。
最相葉月さんの「星新一 一〇〇一話をつくった人」という伝記に、穏やかで面白い人柄だったとされる星さんの、実際に迫るエピソードが数々書かれており、とても面白かったです。
あんなにも膨大な発想力と、圧倒的なストーリーテラーとしての力によって書かれた、1001篇もの作品を、評価することができる文学賞が、この日本になかったということかもしれませんね。
「ボッコちゃん」は、小学生の頃に、野口英世とか福沢諭吉とかの伝記を、親から無理やり読まされ、飛ばし読みすると内容確認されて怒鳴られて泣きながら本を読んでいた私が、唯一面白くて夢中で読んだ作品です!
この本との出会いがなかったら、自分は絶対に読書嫌いになっていたと思うので、読書の面白さを教えてくれたこの本にとても感謝しています。

以上が、私の名刺代わりの小説10選のすべてです。
こうして好きな作品のことを思い起こすと、ほとんど思春期に読んで親しんだ作品で、とても懐かしい気持ちになりました。
小説を読むことで出会う様々な人生は、自分の世界を大きくしてくれるし、本当に豊かにしてくれるものだと、私は思います。
今後もたくさんの素晴らしい小説に出会うことを楽しみに、生きていきたいと思います!
ありがとうございました。