30代男性のゆるみきった日々の記録

私が読んだ本の感想、大好きなヤクルトスワローズ、食べたもの、日々起こったことについて、つらつら書いていきたいと思います。

名刺代わりの小説10選【前半】

ツイッターを見ていたら、名刺代わりの小説10選というハッシュタグを今さら見つけたので、ブログ上ではありますが、自分もやってみたいと思います!

とりあえず半分ということで、
僕の好きな小説10選【前半】は以下の通りです。

一つずつご紹介していきたいと思います!
興味がある方は読んでほしいので、ネタバレは基本的に最小限で行きたいと思います。

1.ヘブン 川上未映子

ヘヴン (講談社文庫)

ヘヴン (講談社文庫)

まず1つ目は川上未映子さんのヘヴンです。
この小説に出会ったのは高校生の時で、その時から今までも重松清さんや星新一さんが大好きで、読みふけっていた時ではあったのですが、いわゆるエンタメ小説ばかり読んでいた私が初めて、衝撃を受けた文学作品だったと思います。
たまたま入った本屋に単行本が置いてあり、白い曇り空のような装丁がとても綺麗で、帯に~~賞受賞!とか各界から絶賛の嵐!!とか書いてあると、各界って都合よすぎるだろ、ていうかどこだよその界隈とか思いながら買ってしまうミーハーの私ですので、たぶん芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞と帯にあったのにも惹かれて購入しました。
帰って読み始めると、いわゆるいじめられっ子の小説だったわけですが、そういう題材は重松さんでもたくさんあったし、自分だっていじめられた経験もあるので、またこういう話かよくらいにしか思っていませんでした。
ただいじめられている主人公と同じ学校でいじめられている女の子が文通を始めるというストーリーに、男子校で彼女もおらず、いじめられないために、必死でいじられキャラに徹していた自分は、何かロマンティックなものを感じて、どんどん読み進めていきました。
今から考えると二人は結ばれて幸せになりましたみたいな展開になるわけないと思うわけですが、当時純情だった私はドキドキしながら読みすすめ、あれなんだこれ?今まで読んできた小説と全然違うぞとじわじわ思い始めたその時、主人公といじめっ子の会話部分で、自分が、心の内面からこの本によって変えられてしまう恐怖を覚えたのです。
その会話シーンでは、自分が主人公をいじめる理由を滔々と話し、読者である自分も圧倒され、あれだけ悪としかとらえていなかったいじめという行為が、「あれ?確かにこのいじめっ子が言うことも一理あるかも…」と思わされてしまったのです。
自分もいじめられたことはあるけど、でもこいつの言うことも筋が通っているのではないか、ていうかもはや正論じゃないかと思ったとき、恐怖しました。
まさに自分の人間としての根幹をぐらつかされていると思ったからです。
その時までは、あくまで自分のコントロールの元に、自分の生き方をよりいい方向に導くため、または純粋に虚構を楽しむためのツールだった小説が、自分を意図せず、しかも当たり前にしか思っていなかったことを、突然棍棒で後頭部叩き割られるみたいな衝撃で、変えてしまうものなんだと、文学ってそういう、善の方向だけじゃなく、やばい方向にも導かれるメディアなんだと知って、本当に文学って面白いんだなと思ったんですね。
人の思考は基本的に言葉のみで行われますが、その言葉のみを使って、脳に直接影響を与えてくる媒体なわけなので、当然なのですが今でも忘れられない体験です。
当時、小説は好きだけど、映像メディアや演劇やアニメとかに絶対に勝てない媒体だよなと思っていた自分の悩みも、
言語でしか表現できない媒体だからこそ凄いのかと、気づかされました。
そこから川上未映子さんが好きになり、今でも著者の作品で一番好きな小説です。
『夏物語』という新刊も評判がいいので、今読み進めています。

2.トワイライト 重松清

トワイライト (文春文庫)

トワイライト (文春文庫)

  • 作者:重松 清
  • 発売日: 2005/12/06
  • メディア: 文庫

2冊目は僕が大好きな作家さん、重松清さんの作品で一番好きな本、トワイライトです。
僕はドラえもんが大好きですが、重松さんはエッセイで語っていましたが、ドラえもんが嫌いなようです。
のび太が秘密道具をいつも間違えて使ってしまう、その子どもゆえの無邪気な悪意に、恐ろしさを感じてしまうとのこと。
この作品は、登場人物たちがドラえもんのキャラクターに重ねて描かれており、主人公は勉強ができるのび太として登場します。
ドラえもん嫌いが出ているのか、登場人物たちはこれでもかと夢と現実にギャップに苦しめられます。
勉強ができていたのび太は、今ではリストラ候補に挙げられ、初恋で片思いのしずかちゃんとは結婚できず、普通に家庭を持っている。
そして久々に開かれた同窓会でみんなと再会するという話なのですが、好きだったしずかちゃんはジャイアンと結婚しているうえに、家庭内暴力にさらされていて、こんなドラえもんは嫌だの縮図のような作品です。
大人になるということは、

あんなこといいな、できたらいいな、あんな夢こんな夢いっぱいあるけど、

という主題歌の言葉が、すべて反転して過去形になって襲い掛かってくるってことなのかなと思います。

あんなことよかったな、できてたらよかったな、
あんな夢こんな夢いっぱいあったけど

ただそれを受け入れて、何とか、少しずつでもやっていこうよという、人生の黄昏(トワイライト)を迎えてしまったのかもしれないけどね、
それでもさ、と励まされるのがいいのかなと思います。
嘘やごまかしがなく、これでもかと現実を突き付けてくるのに、なんとか生きていこうと思えるのは、この作品の大好きなところですし、重松さんの作家として、本当に素晴らしいところだと思います。
きよしこ』や『その日の前に』『日曜日の夕刊』『小さき者へ』も大好きです。

3.人間失格 太宰治

人間失格 (新潮文庫)

人間失格 (新潮文庫)

3冊目は言わずと知れた太宰治の『人間失格』です。
重松清さんの『桜桃忌の恋人』という短編で、気まぐれで全く興味のない日本文学科に入った主人公が、自己紹介で好きな作家を書く際に、太宰の「宰」の字のウ冠の下の部分、「辛い」と書くべきところを、「幸せ」と誤って書いてしまい、太宰大好き病んでる系女子に、どういうことかと詰め寄られ、太宰は辛い人生を送ってきたから、俺は少しでも幸せになってほしくてあえて書いたのだと、とっさの言い訳をしたら何だか気に入られて仲良くなって…という好きな作品があり、走れメロスくらいしか知らなかったけど、そしたら太宰治読んでみようかなと手に取った作品です。
中学生の時、寝る前に読み始め、ここまでとやめることができず、結局一晩で読んでしまった、思い出深い作品です。
古典文学に入るはずなのに読みやすく、夢中で読みました。
この主人公は自分であるとしか思えなかったのです。
印象的だったのは、はしがきの部分で、主人公の年代別の3枚の写真について、1枚目の幼少期の写真は、一見するとかわいい笑顔だけど、こんなにいやな写真はないねと、筆者?に言われる部分で、それまで写真を撮られる際、満面の作り笑顔しかしたことのなかった自分は、見抜かれているような衝撃を受け、有名な「恥の多い生涯を送って来ました。」という書き出しから、僕も人生で恥しか書いてきてないなと感じ、一気に引き込まれました。
3度の食事は、時間が来るから食べているだけで、本当の空腹を感じたことがないのだといった部分や、そこまで自分を嫌な人間だと追い詰めなくていいのに、おそらく著者的な人物として描かれる主人公の内面を、これでもかと描出していきます。
この作品を多感な時期に読めたことで、僕は自分が思い上がりそうになる時、少しは踏みとどまれているのかなと思います。
余談ですが、新潮文庫の背表紙の色は、重松清さんなら緑、筒井康隆さんなら赤というように、作者のイメージカラーになっていますが、太宰治はというと、背表紙の色が黒だったので、当時の僕にとって死に近づいてしまうのかと思わせる禁断の書のようでした。

4.エディプスの恋人 筒井康隆

エディプスの恋人

エディプスの恋人

こんな壮大で頭おかしくなりそうな話書けるのかと、心からこの作者は天才だと思いました。
この作品は七瀬という心の声を聴くことができる能力を持った主人公の三部作、七瀬シリーズの完結編となっていて、1作目の家族八景はもはや古典的SFの域で、後続の様々な作品によって新鮮味はありませんが、2作目の七瀬ふたたびは超能力バトルSFとしてとても面白い作品になっており、それももちろんおすすめです。
ただこのエディプスの恋人は、話が前作との連続性を感じないほどに壮大な作品となっており、神とは、人間とはを問う内容となっています。
哲学性とエンタメ性が両立した稀有な作品であり、神の視点による描写は圧巻で、小説って何でもできるんだと思わせてくれます。
この作品は極力ネタバレなしで、できれば家族八景を飛ばしても七瀬ふたたびから読んでほしいと思います。
なので超おすすめなのにこれ以上書けません…。
ぜひ読んでほしいとしか言えません…。
筒井康隆さんも大好きな作家さんの一人です。
残像に口紅を』『虚人たち』『パプリカ』『旅のラゴス
その他『農協月へ行く』『欠陥バスの突撃』などの短編の数々もおすすめです。

5.無銭優雅 山田詠美

無銭優雅 (幻冬舎文庫)

無銭優雅 (幻冬舎文庫)

前半戦最後は、山田詠美さんの『無銭優雅』です。
山田詠美さんも大好きな作家さんで、人が大人として、楽しく生きるっていうのはこういうことよみたいな感じを公開してくれるところが好きで、
その中でも『無銭優雅』は何度も読み返している作品です。
短編集の『風味絶佳』とどちらをあげるか迷いましたが、文章としての完成度はおそらく『風味絶佳』だと思うのですが、内容としてはこちらが好きかなと思い選びました。
とにかく書き出しが素晴らしいのです。
そこだけでも読む価値があると思います。
40歳のカップルの日常を描いた話なのですが、読むたびに、大人の恋愛とは、なんか東京カレンダーみたいな、高級レストラン行って、バー行って、綺麗で素敵なホテルに行って、みたいのだけじゃなくて、こういうのこそ本当の恋愛なのではないの?
と作者に言われているような気になります。
いい大人が本当の意味でバカになって、二人だけの価値観の中でいいものを共有することこそ、本当の恋愛ではないかと。
昔、文學界村上龍さんと対談していたのを読んだとき、うる覚えですが山田詠美さんのファンが、
震災で家族を失った、家は流れた、でも、山田詠美の小説を読める自分がいるから、まあ、良いかと思っている 
というファンレターをもらったと話していて、この方の悲しみや苦しみ、どうしようもないような辛さに寄り添うことはできないが、この作家の作品が、自分の人生を豊かに彩ってくれるということは、とてもよく分かるなと思った記憶があります。
人生をもっと贅沢に、自分の物差しで感じなさいよと教えてくれる詠美さんは、僕の中で本当に大切な作家さんです。
前述の『風味絶佳』『A2Z』『タイニーストーリーズ』『放課後の音符』も良いですね。


ということで以上、前半戦終了です。いろいろ昔のことも思い出して、
楽しいものですね。
名刺代わりの小説10選【後半】に続いていきたいと思います。